水彩画を描く時には鉛筆で下書きをします。
下書きは、絵の良し悪しに大きく関わるとても大切な工程です。
描き上がった下書きを見た時にゆがんで見えてたり、形がうまく取れなかったりする原因は何でしょうか。
また、うまく描けたと思っても、時間を置いて見てみるとすごくゆがんで見えて、がっかりしたり…。
もちろん、練習を続ければ、正しく形を取れるようになるとは思いますが、私がデッサンを学んだのは、受験のための短期間で、その後はデザイン科にいたために、デッサンを描き続けて練習したという経験がありません。
水彩画の下書きをするときには、自分の納得する形にならず、何度も消したり、やり直したり、毎回、自分のイメージに近づけようと四苦八苦しています。
下書きでうまく形が取れない理由
静物画や風景画などいろいろありますが、下書きは、目で見たものを紙に書き写すという作業になります。
また、想像で描く場合も、頭の中にあるイメージを平面に書き写すことになります。
つまり3次元の立体を2次元の平面に写すということです。
絵を描くときには、その人の思い込みや、技術により、出来上がりの形がゆがんでしまう時があります。
思い込みというのは、
例えば、丸い形を描く場合、丸い形を意識しすぎると、実際にはありえない形になってしまいます。
コップの飲み口の部分などが分かりやすいですが、真上から見たらコップの飲み口は、まん丸い円ですが、真上から見ない限り、円ではなく、長円になります。
飲み口が丸いと知っているために、つい見たままの長円よりも、丸く描こうとしてしまいます。
また、奥行きがあるものは、目線から離れるほど細くなっていきます。
分かってはいても、傾きがゆるやかだと、その細かさが表現できず、少しの線のズレで全体がゆがんでしまいます。
だからといって、平行や直角の線をそのまま定規で引いてしまえば、それもやはりおかしな形になってしまいます。
下書きでは、ほんの少しの線のズレで、正しい形に見えない違和感が出てしまいます。
優秀な目の機能が邪魔をする!?
私達の目は、見たままの形や色ににごまかされない、優秀なすごい機能を持っています。
それが、「恒常性」と呼ばれるものです。
「恒常性」とは、物の色や形、明るさなどを周りの状況に影響されずに、正しく見ようとする機能です。
恒常性にはいろいろあり、
「形の恒常性」は、遠くにあるものは縮んだのではなく、遠くにあるから小さく見えると認識できる機能です。
「色の恒常性」は、暗い場所で白い紙を見た時、その紙がグレーではなく、白色だと認識できる機能で、
「明るさの恒常性」は、黒髪が光にあたって白っぽく見えても、明るいから黒髪が白く見えていると認識できる機能です。
私達は、この恒常性で、混乱することなく、物を見ることができています。
ただ、この恒常性により、見たものを平面の紙に描き写そうとする時に、見たまま描けずにゆがんで描いてしまうのではないでしょうか。
形の恒常性は下書きで形を取る時に、色や明るさの恒常性は色を塗る時に関わってくるのだと思います。
下書きをゆがまないように描くコツ
では、デッサンがそんなに得意でない場合、どうすればうまく形を取ることができるのでしょうか。
ゆがんで見えない絵を描くには、物の位置関係と形と線が重要だと思います。
そこで、私は、実際に物を見て描く場合も写真を撮ります。
写真は、目の機能に関係なく、3次元を平面にしてくれます。
実際に見て描いたほうが、表現は大きくできますが、写真を撮ってどういうふうに見えるのかを確認するのもとても良い方法だと思います。
透明な板に線が書いてある「デッサンスケール」を使うというやり方もあります。
私は、頻繁には利用しませんが、位置関係を確認したいときに便利です。
直線も円もフリーハンドで描くわけですが、
全体を見て大まかな形を取ってから細部を描く、
例えば、コップの飲み口だとまずは傾いていない長方形を描き、1番長い部分と一番短い部分に点を打ち、曲線でつなげていく、
線は、小刻みに切らないで、長いストロークで一気に描く、などのポイントを意識するだけでも良くなると思います。
また、いつも感じるのですが、人の目は、同じものをずっと見ていると、ゆがみを修正する機能があるのではないかと思ってしまいます。
なので、うまく書けたと思った下絵を、次の日に見ると、ものすごくゆがんで見えてしまうのではないかと…。
というわけで、もう一つのコツは、下絵を書き上げて、塗るまでに時間をあけるということです。
すぐに塗りたい気持ちをぐっとこらえて、時間を置いてみてみると、必ず、ゆがみだけではなく、修正したい箇所に気づくことができます。
ただ、写真のようなスーパーリアリズムを描くのでなければ、ゆがみも味になるのではないかと思います。
実際、昔描いていた絵を見ると、そんなふうにはもう描けないと、昔の自分に妙に感心してしまうこともあります。
形にこだわりすぎず、少しでも自分のイメージに近づくように、出来上がりをはっきりとイメージし、心を注いで作品作りをしていけるといいですね。
アーリー フィンチ■絵と配色とデザインと■
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